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プロローグ2022 04 01

ダイヤも一日にしてならず

昔々あるところに、桃太郎のお爺さんとお婆さんが住んでいたであろう時代よりも遥か昔に装飾の起源は遡る。装飾するという習慣は人類が文字をもたず、言葉によるコミュニケーションが成立する前の先史時代から存在したという。古代エジプトやメソポタミア文明においては外敵や、邪視と呼ばれる悪意を持った他人からの視線から身を守るために装身具としてつけられ、古くから生活の危険回避のため、あるいは地位や階級を示すために身につけられていたとされる。古代世界では、金属を加工する方法が発見されたことが、宝飾品芸術の発展にとって重要な段階であった。時を経て、金属加工の技術はより洗練され、装飾はより複雑になる。特にダイヤモンドは19世紀までは貴族層の装飾品として捉えられたが、20世紀からは成功や富を示すアイコンとして中流階級へと普及してゆく。

そもそもダイヤモンドが発見されたのは、紀元前のインドでのこと。ダイヤモンドの原石は硬く、当時は研磨技術が発達していなかったため、ダイヤモンドが美しい輝きを秘めていることを人々は知らなかったという。古代インドにおける政治経済を中心とした学術書の「アルタシャーストラ」には、ダイヤモンドは神秘的な宝石だと記載されており、人々はダイヤモンドに強い魔力が備わっていると信じ、お守りとして扱われてゆく。そして時は1475年、ベルギーにて人類史上初めてダイヤモンドを研磨したと言われる伝説の研磨師、ルドウィグ・ヴァン・ベルケムがダイヤモンドをダイヤモンドで磨くという方法を発明したことにより、ようやくその輝きと美しさが広く認知されるようになる。

 

二つのロマン

やがて人類はその美しく輝くダイヤモンドとは一体なんなのだろうというシンプルな問いに突き当たる。当時のダイヤモンドは、加工技術の向上によりヨーロッパの貴族たちに受け入れられ、四大宝石として扱われていた。そんな中、17世紀にかの有名なアイザック・ニュートンがダイヤモンドに当たる光の屈折を観察していた際、その宝石の可燃性を発見する。ダイヤモンドは実は燃えることが発表されたことにより科学者たちの探究心は一気に膨れ上がり、彼らは次々とダイヤモンドに火を点け始めた。それを見ていた非科学者たちは状況を理解できずに恐れ慄いていたようだ。そして18世紀に近代化学の父と呼ばれるアントワーヌ・ラヴォアジエが、大量に燃やしたダイヤモンドの跡形として全く同じ量の炭素が残ったことを発見し、「ダイヤモンドと炭素は同じ物質で出来ている」ことを発表する。

ラヴォアジエの発見から約200年後の1954年、自らの手でダイヤモンドをつくることに成功する。この偉業は、ダイヤモンドが唯一1種類の元素のみで構成されている鉱物であるという彼の発見によって、数百年もの長い研究年数をかけて果たされた。本来ダイヤモンドという鉱物は、火山活動が活発だった地球の地下マントルの中で生まれ、マントルの高温高圧下で炭素から変化していった物質。地殻変動によって次第にマグマとともに地表に噴出したことで、人々はダイヤモンドとの出会いを果たす。

ダイヤモンドは地底150kmの奥深くで形成される。人類が到達できたのは地底12kmまでだそうだ。

しかしながら、ダイヤモンドはこのマントル起源の火成岩にしか含まれず、火成岩は現在の地球の中でも最も古い時代に形成された地質のため、ごく限られた場所にしか存在しない。よって非常に採掘が難しく、ご存知の通り天然ダイヤモンドは価値が高い。そこで人々は同じ生育環境を地上に再現することで人工的にダイヤモンドをつくることが可能になるのではないかと考えた。何人もの研究者たちが、世界中の研究室で失敗を繰り返しながら実験を行い続けるその光景は、想像するだけで頭を抱えたくなってくる。

もし、地球の奥底で何億年という時間をかけ、奇跡的な条件の合致を元に生成される天然ダイヤモンドが「地球のロマン」と評されるなら、その名の通り、研究所で作られたラボグロウン(Lab-Grown)ダイヤモンドは「人類のロマン」である。天然ダイヤモンドが生成される条件を人工的に再現し、まったく同じ特性を持たせてつくられたラボグロウンダイヤモンドは、天然のダイヤモンドと物質的にも化学的にも同じである、本物のダイヤモンドなのだ。

 

変わる価値観

さて、もうあと少しだけダイヤモンドの話にお付き合い頂きたい。聞いたことがある人も多くいるかもしれないが、ダイヤモンドには近代では4Cという基準がある。4Cとは、カラット(Carat = 重量)、カラー(Colour = 色)、クラリティ(Clarity = 透明度)、カット(Cut = 全体的な形のバランスと研磨の仕上げの状態)のことで、それぞれの4つの英語の頭文字のCを取りそう呼ばれる。しかし歴史同様、ダイヤモンドの価値の基準は時代によって変貌を遂げてきている。

天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドという選択肢がある中で、なぜ私たちはラボグロウンダイヤモンドを使用するのだろうか。それは、ラボグロウンダイヤモンドがとても革新的な素材だから。石、土、木、金属、ガラス、プラスチック ー 人類の歴史は、常に新しい素材の誕生・発見とともにあった。素材は人々のクリエイティビティを刺激し、価値観やライフスタイルをも変化させる可能性を秘めている。ラボグロウンダイヤモンドの誕生は私たちのクリエイティビティを強く刺激し、新しいダイヤモンドジュエリーのデザイン形式にチャレンジさせた。製造方法やカット方法、素材の組み合わせや使い方など、これまでの歴史の中で固定化されてきたダイヤモンドの既成概念を取り払うことで、ジュエリーの概念がさらに進化する歴史が始まったのである。