INTERVIEW 002 クラーク麗菜さん(スタイリスト)
INTERVIEW 002 クラーク麗菜さん(スタイリスト)2023 08 04

第二回目となるBibliothèqueのインタビューに登場頂くのは東京とロンドン、両方を拠点に活動しているスタイリストのクラーク麗菜さん。国内外で活躍し、様々な経験を積んできた彼女のオープンで何事にもポジティブな人柄は、人として学ぶことも多い。自身のキャリアはじめ、服とジュエリーの関係性から付き合い方まで、彼女の明確なヴィジョンを語っていただいた。

クラークさんがスタイリストを目指すきっかけは何だったのですか?

 この業界に入ってから約10年が経ちますが、元々PRアシスタントとして働いたのが最初です。服のリースをしたり、今とは真逆の立場からスタイリストさんを見るお仕事をしていました。また昔から海外にも興味を持っていたので、ワーキングホリデーや学校に行くのでもなく、ある時何も予定を立てずに3ヶ月間ロンドンに行くことを決めました。

 その滞在中には現地でファッションウィークを体感しにパリにも行ったりしたのですが、そこでTHE FOUR-EYED (ザ・フォーアイド)というお店をやっている藤田さんという方に偶然声をかけられたんです。以来お話するようになり、彼から日本にポーランド人のデミデム(DemiDemu)という東京拠点のスタイリストさんがいて、日本語と英語ができるアシスタントを探していると伺い、彼女のアシスタントをするようになりました。なので、実は学校でファッションについて学んだことはなく、卒業してから働いて、自分のやりたいことをやっていく中で今の自分に行き着いた感じです。

どのくらいの期間、アシスタントをされていたのですが?

デミデムさんとは3年間お仕事をご一緒させて頂いたのですが、その間に日本で仕事がある海外のスタイリストさんたちも多くいらっしゃったので、その方たちのアシスタントもよくしていました。ですので、1人のスタイリストさんについていた訳ではなく、色々な方たちとお仕事をさせて頂きました。その中の1人に、今ではThe RowやTory Burchなど、多くのブランドのスタイリングを手がけるブライアン・モロイ(Brian Molloy)というニューヨーク拠点のスタイリストさんがいるのですが、彼も当時日本によく撮影で来ていたので手伝うことが多かったです。

 その後、私はパリに1年住むことになるのですが、パリにいる時もブライアンのアシスタントをしたり、日本での出会いがきっかけで、向こうでの仕事も広がっていきました。運がいいとしか言いようがないのですが、出会うべき人に良いタイミングで出会っていると感じています。

アシスタント時代を経て、これまで数々のスタイリングを手掛けてきたと思いますが、スタイリングにおいて一番気にかけていることは何ですか?

私のスタイリングにおいて、一番大切にしていることはバランス感です。私は身長が低いのですが、小さい頃からお洋服を着る時にどうしたら背が小さく見えなかったり、体型が綺麗に見えるかを考えていました。その強い思いもあり、今のスタイリングにおいてもバランス感はとても重視しています。モデルさんの中には背の高いスラっとした方もいらっしゃいますが、小柄な方だったり、色々な体型の方がいらっしゃるので、洋服に着られていないかどうかという点に気を配ります。また服を実際に着ている時と、写真で映るのでは見え方が違ったりするので、撮影しながら調節していきます。

服以外にもジュエリーを撮影で扱う機会があると思いますが、ジュエリーがあるスタイリングにおいては何を大事にされていますか?

まずジュエリーをしっかり観察することから始めます。ジュエリーがどんな作りで、体に身につけた時にどんな形をしているのか、またモデルさんたちがそれを纏ったときにどう見えるのかを一番に重視して見ていきます。そこからどうスタイリングすることでジュエリーが引き立つのかを考えます。

ジュエリーを軸に考えるスタイリングも今までにありましたか?

これまでジュエリーを中心に考えるスタイリングもありましたが、実は自分の撮影ではあまり多くのジュエリーを使わないです。なぜかというと、私のスタイリングはファンタジーな世界観を大切にしているので、ジュエリーを使うことでぐっとモダンな雰囲気になり、現実性が出過ぎてしまうからです。逆にリアリティが必要な撮影の場合は、ジュエリーを使うようにしています。

 

ジュエリーを軸に考えるスタイリングも今までにありましたか?ジュエリーのリアリティ(=現実感)ってどういうところから出ていると思いますか?例えば、素材感やテクスチャーなどからくるのでしょうか?

そうだと思います。私が個人的に好きなのはシルバーやパールのような素材ですが、どれも硬いですよね。どちらかというと肌に馴染むのとは真逆のことなので、そこから来るのかと思います。生地は柔らかいので身体に張り付き、そこから形も作れますが、ジュエリーは決まった形が既にあるので、変えることはなかなかできないです。ジュエリーの中でも宝石、ダイヤ、金などになってくるとステータスの象徴にもなり得ますし、その人間の欲望のような側面も現実感に繋がるのかもしれません。

クラークさん自身がつけるジュエリーもあると思いますが、つけやすさなどは気にされますか?

基本的に指輪がジュエリーの中でも一番好きなので身につけることが多いのですが、つけやすさは気にしますし、どこの指につけるかも重要だと思います。好きなデザインでもつけたい指にしっくりこなかったら買わないこともあります。どうしてもつけたい指に指輪が入らない時は、リサイズしてつけることもあります。

欲しいものとそうでないものの決め手は何ですか?

決め手は自分との関係性だったりします。私の中では6が重要な数字で、自分の誕生日だったり、今6階に住んでいたりなど、やたらと私の人生には6が登場するんです(笑) このパリの蚤の市で買ったお気に入りの指輪は初めて見た時に可愛いなと思い手に取ったのですが、よく見ると6つ輪っかが付いていると気づき、速攻買うことを決めました。以来、毎日大事にこの指輪を付けています。

6つの輪っかがついた指輪

この女の子と男の子が彫られたネックレスも蚤の市で買ったのですが、丁度これを買った時は私の旦那さんと出会った時期で、二人の雰囲気が似ているなと思って購入したんです。別で買ったRとAのイニシャルをカスタマイズして一緒に付けています。

女の子と男の子が彫られたネックレスにカスタマイズしたRとAのイニシャルのネックレス

カスタマイズするというのもスタイリストという職業ならではだと感じます。組み合わせを変えたり、ジュエリーを自由に楽しんでらっしゃいますよね。

自由といえば、このハート型のペンダントもそうかもしれません。チェーンとは別に買ったのですが、ペンダントとチェーンを繋ぐパーツが見つからなくて、ピンク色の縫い糸で結んでいます。

私は色々なものをミックスすることを楽しみたいのですが、シルバーとゴールドのジュエリーは混ぜて使わないなど、ジュエリーは意外と服よりも固定概念が強いですよね。このペンダントとチェーンに関しても、本来はシルバーのパーツを付けなくてはいけないという考え方もあると思います。ジュエリーを選んだり、身につける時にもっと多くの人が自分で楽しむという感覚を持てるといいですよね。

ハートのモチーフに鳥が描かれたシルバーのネックレス、ペンダントとチェーンはピンクの縫い糸で繋がれている

ジュエリーの素材の中ではシルバーが好きとおっしゃっていましたが、それはなぜですか?

どんなお洋服にも合うからかもしれません。ゴールドは主張が強いので、シルバーより存在感があると思います。また、ゴールドのジュエリーはシンプルにさらっとつけることが多いのに対して、シルバー好きで指輪をつけている方はたくさんつけて、レイヤーを楽しんでいる方が多いイメージです。

ちなみにゴールドのジュエリーは持っていらっしゃいますか?

実は一つだけあって、プロポーズされた時にもらった婚約指輪がゴールドです。プロポーズされる前に私が偶然オンラインで見つけたカルティエのヴィンテージの指輪で、作られた年が私の生まれた年の1992年でした。旦那さんの目の色もグリーンのような色なので、もらうならこんな色の石がいいなと思っていた矢先にピッタリのものが見つかりました。あまりにも色々とはまったので、くれるならこれがいいと直接本人に伝え、その半年後にこの指輪でプロポーズされました。聞くまで知らなかったのですが、旦那さんはそのことを伝えた次の日にこの指輪を買ったそうです(笑) 

ヴィンテージ カルティエの婚約指輪

いくら積まれても渡せない一点について聞こうと思ったのですが、まさにこの指輪ですね。服において思い入れのある一点はありますか?

服はもちろん大好きなのですが、どちらかというと消耗品だと思っているところはあります。私は流行に流されることはなく、クラシックなアイテムが好きなのですが、人間なので汗はかきますし、汗染みも洋服につきます。ですので、ジュエリーと服への思い入れの差はかなりありますね。大切な服はたくさん持っていますが、それを後世にも残したいかと言われると違いますし、ジュエリーの方が肌身離さずつけているものなので、感情が乗ります。ジュエリー自体に宿るエナジーもより強いと思います。

クラークさんは旦那さんと一緒に2022年にロンドンからメインの拠点を日本に移されていますが、きっかけは何だったのですか?

私の旦那さんはイギリス人なので、ラッキーなことに、日本とイギリスどちらにも住めるという二つの選択肢があります。仕事をするのであれば、キャリア的にもロンドンに住んだ方がよいという思いはどこかにありましたが、自分の生活の質を考えると日本の方が圧倒的に楽しく過ごせると思ったというのが一つあります。コロナを経験して考え方が変わったり、色々と思う部分も大きかったです。あと私は温泉や神社が大好きなので、ロンドンにないのが耐えられなかったのもあるかもしれません (笑)

もう一つの理由としては、旦那さんの職業がジャーナリストということもあります。日本にはたくさん才能あるデザイナーやクリエイターの方たちがいると思いますが、言語の壁もあり、自分の発信を海外にできない人も多いと感じています。旦那さんは英語で記事を書いているので、彼の力もお借りして、繋ぐ架け橋のお手伝いができるのではないかと思っています。もちろんスタイリングのお仕事もしていますが、最近の仕事の30%くらいは旦那さんのお手伝いをしています。先シーズンはジャパンファッションウィークでVogue Runwayのレビューをしたり、デザイナーさんに直接インタビューすることもありました。人と会話をすることで自分の視野も広がりますし、インスピレーションやパワーをもらえます。

色々な方とお話しする機会があると思いますが、日本と海外でデザイナーやクリエイターの表現の違いを感じることはありますか?

 

まず一番に教育の違いがあると思います。分かりやすく言うと、日本の学校はどう美しく物を作る技量が求められますが、海外ではどう感性を磨くことでクリエイティビティが開花していくことに焦点が当たると思います。それは日本の撮影においても言えることなのですが、何かに縛られている感じはします。例えば、このブランドとこのブランドは一緒に使ってはいけないなど、日本ではブランド側にも色々な制約や厳格なルールがあります。一方、海外は真逆で、このブランドのトップスだけをルックに使ってもらえればいいなど、かなりフレキシブルです。このようなことからクリエイティビティや表現力にも差が出てくると強く感じています。

 また今回お仕事のインタビューを通して感じたのが、日本人のデザイナーさんのインスピレーション源や日本の伝統製法の取り入れ方がとても面白いということです。そこにしっかりとしたテーラリングが入り、かっちりしたルールのようなものが融合することで、絶妙なバランスと上質さを生み出していました。反対に海外での服づくりは形やインパクトを大事にすることが強く、細分が日本のデザイナーに比べると弱い印象があります。日本人の職人気質なところも身にしみて感じましたし、日本と海外では違う表現の良さがあると思います。

 

これまで国内外で活躍してきたクラークさんですが、自身のこれからの目標は何ですか? 

多くの方はこの事務所に所属して、この媒体で仕事をしたいなど、大きな目標を掲げてると思うのですが、私は逆にそこまでなく、目標を掲げていないです。毎回このタイミングにこれができてやっぱりやってよかったなと思うことがほとんどなので、感謝の一言に尽きますし、基本的に何においても後悔をしないです。ですが、自分の感性を常に磨いておくことはとても重要なことだと思っています。また常にオープンなスタンスを保っていたいので、仕事を詰めるということもしないですし、休みも十分に取ります。目標を掲げるより、どのタイミングで何が入ってきても万全でいられる形を取りたいと言った方がいいかもしれません。スタイリング以外の仕事をしているのもそうですが、固執しすぎないことも自分に合っているので、他に違うことをやる機会があればこれからも挑戦してみたいです。



Profile

クラーク麗菜 Reina Ogawa Clarke

東京・ロンドンを拠点に活動をしているスタイリスト。The GentlewomanやWall Street Journal Magazineなど雑誌や広告などで幅広く活動をしている。

Website | https://www.reinaogawaclarke.com/
Instagram | https://www.instagram.com/reinaogawaclarke/

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