石が魅せる物語
石が魅せる物語2022 04 30

石の神秘

誰もが一度は耳にしたことがある世界遺産には、奈良の明日香村にある石舞台古墳やイギリス南部のソールズベリーにあるストーンヘンジなど、石にまつわる場所が多く存在する。ストーンヘンジを例に上げると、そのあまりの不思議さに、巨人が組み上げた巨大な石をアーサー王伝説の魔法使いマーリンがアイルランドから魔法で運んだという言い伝えや、宇宙人の宇宙船発着場だという説まである。何世紀にもわたって行われた実地調査によって、ストーンヘンジは千年以上かけて作られ、石の配置も時代の流れと共に変化していることが明らかになった。人々が癒しを求め訪れる「先史時代のルルド」としての役割を担っていたのでは、と近年推測されているが、ストーンヘンジが作られた目的には、未だに多種多様な解釈がある。人々を魅了する石の不思議な過去や人と石の繋がりは非常に興味深い。

世界には様々な地域で成形する石があるが、フェアリーストーン(妖精の石)という石を聞いたことがあるだろうか。採取される場所によってその形状や成分が異なるが、中でも平たく丸みを帯びた、思わず触ってみたくなるような形の石である。主要産地の一つは、カナダのケベック州西部とオンタリオ州北東部にあるハリカナ川。この地域のネイティブアメリカンのアルゴンキン族がケベック州のアビティビ地方にに向けてハリカナ川を遡上した際、川岸に妙な石を見つけ、その石がビスケットのように見えたことから、その川を「ビスケットの川(ハリカナ川)」と呼ぶようになったと言われる。アルゴンキン族は、このフェアリーストーンをアビティビストーンと呼び、狩猟に出かけるときにお守りとしてよく持ち歩いていたらしい。石は悪い霊から身を守り、家とその住人を保護すると信じられ、恋人たちの間では、最も美しいアビティビストーンを愛する人に捧げ、大きなものは家の中に飾られたという。アビティビストーンは母なる地球が育むエネルギーと強い繋がりを持つ石として、先住民のコミュニティによって、長い間大切にされてきた。

独特な形はまるで妖精のよう。氷河期時代からの堆積物が長い年月をかけて石化したことにより、角が取れた丸みを帯びた形になっています。独特な形は妖精を想像させ、妖精が創り出したとも信じられていたため、「フェアリーストーン」と名付けられました。(画像提供:LIGHTNESS TREE/ライトネスツリー)



石を纏う

ケベック州北部一帯は氷河期に大きな湖であったことにより、アビティビストーンは現在では河となった一帯の土地で採られる。多くの石が見つかるハリカナ川流域の地層は、鉱物と化石の世界の間に存在するさまざまなコンクリーション堆積物の砕屑粒子間の隙間に鉱物が析出・充填することによって凝結したもの)の一部であり、数百万年前に化石化した微生物や有機物質が固まったのが原因だとされる。このユニークな形のアビティビストーンは、ケベック州北部特有の現象で、石の表面は滑らかで規則正しく、内側は球状に膨らみ荒い形をしており、石に見られる線は数千年前に化石化したミミズや有機物が残した痕跡だという。

場所は変わってアメリカ、バージニア州には「フェアリー・ストーン州立公園」という公園までもがあり、ブルマウンテンの頂上に50エーカー程の土地の地表から採れるフェアリーストーンのために多くの人が今も訪れる。ケベック州で採れるアビティビストーンとは異なるが、ローマ十字、マルタ十字、聖アンドレ十字を模した十字形になることが多く、長さは2.5cmほどの大きさになることもあるという。アパラチア山脈の形成過程で地殻が加熱と冷却を繰り返すうちに、珪酸鉄アルミニウムが6面体の形状に結晶化する。フェアリーストーンはダイヤモンド同様に周囲の物質よりも硬いため、周囲の柔らかい物質よりも侵食速度が遅く、柔らかい物質が先に流されると、結晶が地表に浮かび上がってくるという。一つ足りとも同じ形のものがない、個性的なフェアリーストーンには自然が生み出す不思議なパワーが宿り、人々がお守りなどとして身につけることは至って自然な行為なのかもしれない。

 現代においても、私たちの身近には宝石やパワーストーンなど、石を身につける文化がある。宝石をあらわす”ジェム”という言葉には”蕾”や”芽”といった意味もあるそうだ。宝石は、そこからひとつの世界がうまれる蕾や芽である。石に不思議な力を感じ、意味を見出し、身につけて飾るといった行為の中に、人間とは、文化とは何かという謎を解く鍵が潜んでいるように思える。