ダイヤモンドが映す未来
ダイヤモンドが映す未来2022 04 15

無縁であり有縁

宝飾用のラボグロウンダイヤモンドは、原料となる小さなダイヤモンドの種結晶を成長させることから生まれる。製造方法は2種類あり、一つ目はHPHT(High Pressure High Temperature 高温高圧)法。地球深部で天然ダイヤモンドができる高温高圧の環境を再現する方法だ。炭素物質に非常に高い温度(1500℃程)と圧力(5-6GPa)を与えることで、ダイヤモンドの結晶へと成長させる。二つ目のCVD(Chemical Vapour Despositionー化学気相蒸着)法は、天然ダイヤモンドができる過程とは全く異なる方法で生成する。高温低圧環境の真空装置の中で、メタンガスなど炭素を主成分とするガスを分解し、スライスした板状のダイヤモンド結晶の上に炭素原子を降らせて沈積させる合成方法だ。それぞれの方法で生成されたダイヤモンドは、原石の状態では天然ダイヤモンドとは異なる姿をしているが、カット・研磨されることにより、美しいダイヤモンドの姿になる。

その名の通り、ラボグロウンダイヤモンドは研究所で育つため、採掘に伴う環境破壊、過酷な労働環境、児童労働がない。そして、よりサステナブルな太陽光発電や風力発電によるクリーンエネルギーを使用し、ラボグロウンダイヤモンドを製造する企業も少なくない。さらに、世に言う“紛争ダイヤモンド”のような、紛争地域を原産地とし、内戦で使われる武器の購入資金や武装勢力の資金源になることはないため、コンフリクトフリー(紛争と無縁)なのだ。

一方で、天然ダイヤモンドは、昨今毎日ニュースで耳にするロシアが世界の産出量の約3分の1を占めるという。ロシアでの産出量の約90%はダイヤモンド採掘会社のであるAlrosa(アルロサ)が独占し、さらに蓋を開けてみると、アルロサ社の株式の3分の1はロシア政府が直接所有、その他は多くの鉱山があることで有名なロシア連邦に属するサハ共和国とその行政当局が所有している。ロシアによるウクライナ侵攻が続く今、ロシア産の天然ダイヤモンドは、平和な隣国に対する国家主体の武力紛争に加担する、紛争ダイヤモンドへと変貌を遂げているのだ。ロシア産の天然ダイヤモンドの売買を続けるか否か、宝石商やダイヤモンド業界が日々決断を強いられる中、主要な企業や業界団体は今のところ沈黙を守り続けている。多くがこの危機的事態が早く収まり、忘れ去られることを望んでいるからだと推測される。

 

共存共栄

ラボグロウンダイヤモンドはサステナブル且つコンフリクトフリーで製造されるが、天然ダイヤモンドよりも良いものであると一概に主張したい訳ではない。ここ数年で格段に状況は改善されつつあるが、天然ダイヤモンドは未だ採掘の過程での野生動物への悪影響、地下水汚染など、環境に対する代償が指摘されている。しかしながら、天然ダイヤモンドは長い地球の歴史が詰まった非常に魅力的な宝石であることも確かだ。

総合的に評価すると天然ダイヤモンドの環境負荷は大きいが、温室効果ガスに限定するとラボグロウンダイヤモンドの環境負荷は天然ダイヤモンドを格段に上回るという。よって、ラボグロウンダイヤモンドにおいてもさらなる改善点はある。ラボグロウンダイヤモンドは再生エネルギーをより活用すれば、環境負荷の低いダイヤモンドとなりえるが、現状発電に化石燃料を大量に利用していることを鑑みると、その道のりはまだまだ長い。

つまり、最適な環境下で生産されたラボグロウンダイヤモンドは、よりクリーンなダイヤモンドの選択肢を消費者に提供できるということ。そして、私たちがジュエリーを娯しみ続けるための最善の道は、ラボグロウンダイヤモンドの技術革新の恩恵を受けながら、同時に採掘される天然ダイヤモンドの生産背景も改革していくことなのだ。

 

未来への姿勢

誰もが一度は耳にしたことがあるであろう「ダイヤモンドは永遠」のフレーズで有名な歴史あるジュエリーブランド、De Beers(デビアス)は、1世紀以上にわたってダイヤモンド市場の第一線を走ってきた。現在も世界最大の採掘業者として、ボツワナの全サプライチェーンに独占的にアクセスできる権利を所有する。デビアスは長年採掘された天然ダイヤモンドは希少で、婚約指輪の唯一の選択肢であるというイメージに重きを置き、ラボグロウンダイヤモンドの採用には消極的な姿勢を見せていた。ところが、2018年にラボグロウンダイヤモンドを使用した新シリーズ、LIGHT BOX (ライトボックス)を発表する。今までの婚約指輪のための感情的な重厚さを演出するアプローチとは異なり、よりトレンドを意識した、手頃な価格で魅力的な選択肢を探している若い世代へ注力し始めた。さらにデビアスはTracr(トレーサー)プログラムも発足させる。人工知能、ブロックチェーン、高度セキュリティなテクノロジーを駆使し、メーカーから小売業者、そして最終消費者まで、ダイヤモンドの各ステップにおけるデジタル資産の追跡を可能にした。

デビアスのような長い歴史はないが、もう一つ面白いブランドAether(エーテル)も紹介したい。ダイヤモンドの元素である炭素を再利用することに着眼し、空気中の炭素から成型されたダイヤモンドを使ったジュエリーブランドだ。ダイヤモンドに使用する炭素の採取は、スイスのチューリッヒ近郊の廃棄物発電が可能なごみ焼却炉で行われるという。汚染された空気を取り込み、特殊なフィルターで二酸化炭素を採取する。取り込まれた二酸化炭素は、ダイヤモンドの成長に最適な炭化水素の原料に合成され、強力な反応炉に入れられる。そうして炭素を結晶の形に成長させ、3〜4週間後にダイヤモンドに生まれ変わるそうだ。エーテルはダイヤモンドを作ることで、温室効果ガスの排出量を減らし、世界初のカーボンネガティブを実現した。

このように、様々な背景を持つジュエリーブランドが台頭し、ラボグロウンダイヤモンドと天然ダイヤモンド双方の良さがより理解されていく時代において、柔軟に良い面と悪い面を受け入れながら、世の中がより豊かになるものづくりを目指していきたい。凝り固まった考えを刷新し、常に革新的であろうとする姿勢 ー ダイヤモンド産業だけではなく、全ての産業の今後の未来に必要なメンタリティと言えるだろう。