ビーズに宿す想い
ビーズに宿す想い2022 05 27

タイムレスな衝動

小さい頃にビーズを使って遊んでいた人は多くいるのではないだろうか。自分もその一人であり、気づいたら夢中になって組み合わせを考えていたのを今でも記憶している。カラフルで色々な形をしたビーズを糸やワイヤーに通し、自分だけのアクセサリーを作るのは純粋に楽しく、単純でありながら時間をつい忘れてしまう作業である。ひと昔前の2000年頃にはプラスチック製のビーズを使ったアクセサリーが流行り、行く先々で黄色いスマイリーフェイスを見た。そして今、また若い世代を中心に「Y2K (Year 2000)」、すなわち2000年頃に流行ったスタイルが再熱しているらしい。近年、世界最大規模のハンドメイドマーケットプレイスEtsy (エッツィー)において、2000年代に流行ったスマイリーフェイスのモチーフがついたアクセサリーの検索数は11360%増加し、2100万人以上が利用するフリマアプリ、Depop (ディーポップ)でも「Y2K」は人気検索ワードになっているそうだ。まさに流行は20年周期と言われるように、ここ数年でビーズを使ったアクセサリーブランドもかなり増えたように思う。

String Ting

中でもスマートフォンにつけるビーズストラップやブレスレットなどのアクセサリーを展開するString Tingはその代表格で、ビーズのリバイバルを盛り上げた立役者とも言えるアクセサリーブランドだ。ファウンダーのレイチェル スティード ミドルトン (Rachel Steed-Middleton) により2020年のコロナ禍に誕生したString Tingは、誰もがどうなるか予測できなかったパンデミック第一波の最中で最前線で働く人々のための資金調達活動として誕生した。初めは彼女自身の子供と一緒に一つ一つ制作をしていたが、SNSを通じてビーズストラップが瞬く間に人気を博し、数ヶ月の間に独立したビジネスを立ち上げ制作チームをつくりあげた。今では世界のセレブたちがこぞって使うアクセサリーブランドにまで成長したが、特にコロナ禍という未曾有の状況でも短期間で技術を使わずに作れることが肝だったのかもしれない。また、暗い気持ちで沈んだ世の中をぱっと明るくする力が、カラフルでポップさ溢れるビーズにあったからこんなにも世の中に受け入れられたのだろう。String Ting を皮切りにビーズのアクセサリーブランドは多種多様に増え続け、lemondropbeadsやPicnic Blanketなどの人気のブランドが台頭してきている。自分にとってもそうであったように、ビーズは誰もが子供の頃から親しみがあり、手に取って遊べるちょっとノスタルジックなアイテムだ。両端に穴を開けて糸さえ通るようにすればあらゆるものをビーズにすることが可能で、組み合わせ次第で瞬く間にオリジナルのチャームやブレスレット、ネックレスが完成する。もしかすると、ものに穴を開けて何かを作るという行為は人間の原始的な行動であり、意外にもタイムレスな衝動なのかもしれない。というのも近年、世界最古の装身具は海貝の殻から作られたビーズのネックレスであることがわかったからである。



コミュニケーションの化石

人類最古の装飾が何であるかについては諸説あるが、アメリカのアリゾナ大学で人類学の教鞭を執る教授を含めた国際的な考古学者のチームが2014年〜2018年の4年間に発掘した33個の海貝のビーズが、現在考えられる最古のジュエリーではないかという研究成果が去年9月に公式に発表された。出土はモロッコ西部の都市エッサウィラから約16キロ内陸の洞窟で、14万2000年から15万年前のものと判明したビーズは未だ解明されていない人類のヒントを秘めており、世界中の人類学者から注目されているという。そもそも15万年前となると我々の先祖であるホモ・サピエンスが生きていた時代で、石刃技法という精巧で効率のいい石器製作技術をもち、骨角器を豊富に使用し始めた頃である。現代では当たり前すぎて想像しにくいが、この頃の人類の生活にはまだ言葉が存在していなかった。

国際的な考古学者のチームにより、2014年から2018年の間、モロッコ西部の洞窟から33個のビーズが回収された。
Courtesy of Steven L. Kuhn

発見されたビーズは一見装飾品かどうか見分けがつかないが、貝殻に開けられた穴をよく観察すると、まわりの表面に微細な筋のようなものが繰り返し見られ、人が道具を使って、紐で吊るして磨耗させることによって作られたことが確認されたという。研究によると、一般的に北アフリカで発掘されるこのような古代ビーズは、特徴的な槍を使いガゼルやイノシシ等の動物を狩猟していたことで知られる中石器時代のアテリア人と関連しているそうだ。過去にもアフリカ北部や南部の遺跡からビーズは発見されているようだが、13万年前以上前のビーズの発見は今回が初めてであったという。

発掘された14万2000年から15万年前の海貝のビーズの一部
Abdeljalil Bouzouggar

このビーズの発見は、現状最古の装飾品が判明しただけではなく、人類の認識やコミュニケーションの進化を研究している人類学者にとっても、大きな手がかりとなったそうだ。何故ならば、当時起こったと想定される人口増加に伴い、アテリア人は限られた資源を守るため、また自らを識別し一族のアイデンティティを表現するため、ビーズを使い特定の地域に属していることを他人へ示していたかもしれないことが分かったからである。元々アテリア人は自己を装飾するために顔や身体に黄土色の顔料を塗ったりしていたということがわかっており、今回発見されたビーズにもこの黄土色の顔料の跡が残っていたそうだ。しかし、ビーズの使用が発見されたことにより、彼らは土を身体に塗る=一時的な装飾ではなく、ものとして形に残すことで、より永続的に何かを伝えようとしていたと想像出来る。どんなメッセージを伝えようとしていたかについては上述の通りまだ解明されていないが、形として残したいと思うほど重要なものであったのであろう。人類学者たちによると、この事実は人類が社会という大きな枠組みとのコミュニケーションに遥か昔から興味があったことを示唆する大きな発見であったそうだ。この貝殻のビーズはきっと、人類のコミュニケーションの化石と言えるものなのだろう。

約2年前に突如世界中の人々を恐怖に陥れたパンデミックによって、当たり前のことができなくなり、多くの人が生活を見直すきっかけになったと思う。人類が生きる上で大事なものを考えさせられ、原点回帰をすることになったコロナ禍で、最古の装飾品とされるビーズでできたアクセサリーが流行ったことは、繰り返されるトレンドのように、人類史の大きな時間軸のなかで繰り返される必然であったのかもしれない。