インクルーシビティとデザイン
インクルーシビティとデザイン2022 10 21

選択の自由

イギリスのファッションデザイナー、アレキサンダー・マックイーン (ALEXANDER McQUEEN) が1999年春夏に発表した「No.13」のショーの動画を初めてみた時、パラリンピアンそして女優、モデルとしても活躍するエイミー・ムリンズ(Aimee Mullins)が義足をつけてランウェイを歩いている様はごく自然で、堂々とした佇まいからは気づかず、後から知って驚いたのを覚えている。トネリコと呼ばれる木にぶどうのツルとモクレンを彫った義足で堂々と歩く彼女の姿はファッション界でも革命的と言われたマックイーンのショーで異彩を放っていた。それ以外にも彼女はアメリカの現代美術家のマシュー・バーニー(Matthew Barney)の5部作の映像作品『クレマスター』シリーズなどにも登場し、「身につける彫刻」と呼ばれる数々の芸術的な義足の制作に携わっている。人間らしさの再現・復元のみに美の理想を見出す視点を解放し、義足というものに対して人々の視野を大きく広げた人物である。

1998年 Alexander McQueenがゲストエディターとして参加したDazed & Confusedの号にてエイミー・ムリンズがモデルを務めた雑誌エディトリアル ー Dazed & Confused 1998 Alexander McQeen Guest Editor Issue FRIEZE LONDONのエントランス

義足と言うとその言葉の通り、人間の脚の代用として歩くことをサポートするだけのものと未だに捉えられがちだが、そのプロダクト自体の美しさしかり、着用することにより外に出歩きたくなるべきものだと思う。もちろん全てのことに対してではないが、日本では人と違うことは負の要因として扱われがちであり、それを隠し差異を無くそうとする考えが大きいことも、より義足に対してのイメージを左右してしまう。そんな中、2020年に木村伊兵衛写真賞を受賞し、障がい、ボディイメージなどにまつわる問題に対し問い続け、国際的にも高い評価を受けるアーティストの片山真理の「ハイヒールプロジェクト」を知り、日本でもこうやって障害者の選択の自由を発信しているアーティストがいるのだなと深く感銘を受けた。

彼女は先天的に四肢疾患をもち、9歳で両足を切断して義足での生活を送り始める。本人も学生時代に東京に住んでいた数年間は車椅子も杖も使わず生活し、自分の左手や義足を隠し、街に紛れ込むことに必死だったそうだ。「ハイヒールプロジェクト」は彼女が大学時代にジャズバーで歌手をしていた時に客から「ハイヒールを履いてない女なんて女じゃない」と野次を飛ばされたことがきっかけに、その悔しさからハイヒールを履ける義足を製作し、ハイヒールを履いて街を歩き、ステージに立つというゴールを設定したことにより始動する。しかし、プロジェクトを始めたものの、日本の社会福祉制度の中では国や地域の公的機関の援助によって与えられる選択肢が少ないのが現状だったという。福祉とは欠けたものに対して、必要なものを与えるという考えが根底にあり、ファッションは贅沢品であるため、社会復帰や社会活動において重要な要素ではないという考え方を突きつけられたそうだ。そのような状況の中で「ハイヒールプロジェクト」は、当事者たちにお洒落に目を向けよう、ということを示唆するのではなく、お洒落をしたいと口に出してもよい、ということを広く伝えていくことが必要だと彼女は考えた。そして、やりたい、やりたくないという自由な選択肢がまず前提にあることが大切だということを作品を通して訴えかけてきた。また今年からは「ハイヒールプロジェクト」は第二弾のフェーズを迎え、義足の部品や靴の開発も行いながら、プロジェクトに関わる専門家、同様の障害のある当事者や身体や障害にかかわる研究者へのリサーチを通じて、あらゆる人に与えられるべき選択の自由、福祉、そして身体そのものの可能性について問う機会を目指しているそうだ。



インクルーシブということ

義足以外にも主に車椅子が必要な人に向けたFFORA(フォーラ)というファッション・ライフスタイル・ブランドもある。2017年にルーシー・ジョーンズ(Lucy Jones)によりニューヨークで設立されたFFORAは「Disability first—made adaptable for all (障害者を第一に、すべての人に適応できるものを)」をモットーに、幅広いアクセサリーを展開している。FFORAは彼女が脳性麻痺を患う家族がいる人と話をした機会をきっかけに立ち上げられ、2016年にはForbesの30 Under 30 (Forbes -世界を変える30歳未満30人)の一人にも選ばれている。

体の動きが制限されている人々にとって、毎日数々の困難に直面する理由の一つに既製品のデザインの悪さがあるということに気づき、約2年の月日をかけて障害者コミュニティにおいて活動するアスリート、アーティストまた医療関係者たちと共にリサーチをし、商品開発を進めたという。FFORAの最大の特徴はアタッチメント システムという独自の部品であり、車椅子ユーザーが椅子に簡単に取り付けられ、360度回転するため、どの角度からも使えるものになっている。またこの部品はマグネット式であるため、バッグやタンブラーなどを力をかけずに簡単に取り外しができる。もちろん、全てのプロダクトは車椅子ユーザーでない人でも使えるインクルーシブなデザインだ。また、FFORAの商品は価格も意図的に低く抑えているそうだ。その背景には(アメリカでは)統計的に障害者の所得が低く、その所得の多くを医療費等に充てなければいけないことが大きな理由としてあるからだ。価格面を実現できたのには、FFORAの生産先のオーナーの父親が障害者であった為に、注文のミニマム発注を協力して下げてくれたからであるという。デザインはもちろんのこと、障害者が置かれている社会的現状も理解し、ブランドに反映していることが素晴らしい。

自らの装いをどう選ぶかは、全人類が生きている上で向き合うことである。社会にある固定概念や不合理なルールゆえに自分らしいと思える選択ができないことも多い中、アーティストが作品を発表したり、新しいブランドが生まれることで、第一に自分らしいと思える新しい選択肢を望んで良いということが伝わる。さらに、義足や車椅子がデザインの観点からも注目を集め、多様で多彩な商品が市場に増えていくきっかけになる。義足や車椅子の例のように、身体の機能を補う“機能性“が第一に求められるプロダクトであっても、”機能”だけではなく、そこに”美しさ”があることで、身につける人の生きる活力になる。”特別な人のための特別な機能”としてではなく、すべての人を対象とした機能美をデザインすることで、障害の有無で分け隔てることのない、インクルーシブなプロダクトが完成するのではないだろうか。