FRIEZE LONDON 2022を振り返る2022 11 05
先月休暇も兼ねてロンドンに久しぶりに行く機会があった。ポストコロナのロンドンは活気に溢れ、今回学生時代によく行っていたアートフェア、FRIEZE LONDONの時期とも重なり、現地を訪れることができた。FRIEZE LONDONは1991年にロンドンで創刊された現代美術専門誌の『FRIEZE』が2003年から毎年10月に主催するイギリス最大規模の現代アートフェアである。世界42カ国から最も影響力のあるギャラリー160軒以上がロンドン中心部のリージェント・パークに建てられた会場に集結した。ロンドンだけでも年間数多くの展示が開催され全て巡るのは大変だが、各国の有名ギャラリーを一気に見れる絶好の機会でもあるフェアには毎年大勢の人が訪れる。
「FRIEZE LONDON」は大きく2つのパートに分かれ、最新の現代美術に焦点を当て、コンテンポラリー・アートに特化した「FRIEZE LONDON」と幅広い時代のアートを取り扱い、最高級アートを求める大物アートコレクターやギャラリストたちが集まる「FRIEZE MASTERS」で構成される。また、世界中のアーティストによる彫刻作品を屋外で展示する「FRIEZE SCULPTURE」や、現地の美術館やコミュニティと連携して行う展示やイベント、トークプログラムなどもこのフェアの大きな特徴だ。
FRIEZE LONDONのエントランス リージェント パークにあるFRIEZE SCULPTUREの作品Ugo Rondinone - Yellow Blue Monk 2022
日本での知名度はまだあまり高くないかもしれないが、FRIEZEはフェアのためにアーティストに新しい作品をコミッションした初のアートフェアでもあり、参加するギャラリーに常に野心的でインスピレーショナルな作品を展示するよう、刺激を与えてきた存在でもある。2012年には毎年5月にニューヨークで「FRIEZE NEW YORK」と「FRIEZE MASTERS」、また2019年からロサンゼルスでも「FRIEZE LOS ANGELES」が開催されるようになり、年々開催地を増やし、輝かしい成長を遂げている。今年は20年の歴史を持つ韓国の代表的なアートフェア「KIAF ART SEOUL」の期間に合わせ、初のアジア開催であった「FRIEZE SEOUL」が韓国のソウルで9月に行われたこともまだ記憶に新しい。
公園の敷地内に設置された巨大な会場の箱の中には、Gagosian, Sadie Coles HQ, David Zwirnerなど、名だたるギャラリーのブースが肩を並べ、日本からはTaka Ishii GalleryがFRIEZEに、また思文閣がFRIEZE MASTERに今年は参加していた。一つ一つギャラリーをみて回るとなると、数日かかるような規模感である。会場にはギャラリー以外にも独自のプログラムを敷地内で開催しているブランドやロンドンの人気レストランなども出店していた。中でもイギリスの大手ラグジュアリー リテーラーのMatches Fashion(マッチズ ファッション)はオランダのチョコレートブランドのTony’s Chocolateとのパートナーシップの一環として景品にチョコレートが入ったUFOキャッチャーを会場に設置し、長蛇の列ができていた。
Timothy Taylorのブースに並ぶSahara Longeのペインティング見所は挙げてもきりがないが、個人的にはロンドンとニューヨークにギャラリーを構えるTimothy Taylorのブースが圧倒的な世界観を放っていたと感じた。フィレンツェの名門Charles H. Cecil Studios (チャールズ・H・セシル・スタジオ)を卒業してからまだ5年しか経っていないが、その才能をじわじわと知らしめている注目の若手作家であるSahara Longe(サハラ・ロンゲ)の作品を特集したブースだった。とあるパーティーシーンを描いた大きなペインティングで構成されるシリーズは、バロック、ルネッサンス、ドイツ表現主義の要素をうまく技法に取り入れつつ、古典的な舞踏会のダンスフロアのセッティングに歴史的に描写されなかった黒人の人々を描いている。この作品において、彼女は人間観察というテーマを掘り下げ、舞踏会のような人々が集まり隠れた社会性が最もあらわになる場所を描いている。宗教画や歴史画のように、人々が群れをなし、各々が何かを企みつつも、互いに関わり合っている様子を思い起こさせる絵画だ。それぞれの人物の物語や、彼らの間の力関係、社会的な装いの下にあるものを、感じさせるシーンを描き出している。
Anthea HamiltonGiant Pumpkin No.1 2022
Hand painted calfskin, polystyrene, timber, metal fixings, resin
Courtesy of the artist, Thomas Dane Gallery and M HKA
また毎年最も優秀なブースに送られるフリーズ スタンド賞はロンドンのThomas Dane Galleryが今年は受賞。ロンドンにあるバービカン アート ギャラリーのキュレーターFlorence Ostende (フローレンス・オステンデ)や、イギリスのマーゲートにある美術館ターナー・コンテンポラリーのディレクターClarrie Wallis (クラリー・ウォリス)などにより選出された。Thomas Dane Galleryのブースはイギリス人アーティストのAnthea Hamilton (アンシア・ハミルトン)が企画し、彼女自身の最新作の巨大なかぼちゃのスカルプチャーの他、ギャラリーに所属するアーティストの作品からそれ以外のアーティスト作品もスペースに展示されていた。彼女は2016年度のターナー賞の最終選考の候補者の1人であり、奇妙でシュールなスカルプチャー作品や大規模なインスタレーション制作やパフォーマンスもすることで知られている。アーティストの特徴でもある空間作りが生かされ、ブースの壁、床、家具や作品の配置など、プレゼンテーションのあらゆる側面を考慮し、完成された環境を作り上げていた。
ここ数年のコロナ禍の影響で、大規模イベントが数々キャンセルされてきたこともあり、実際に現地に行き、各国から集まったギャラリーや作品を目の前で鑑賞することは率直に大変新鮮であった。会場内で行われる巨額のアートの売買の光景をみると圧倒される上、全く違う世界に生きている人たちがこんなにもいるのだなと笑ってしまいそうになる。アート業界は言ってしまえば、世の中で限られた一部の人がアクセスできる特殊な世界でもある。しかし、FRIEZEのようなフェアが存在することで、アートに携わる人、携わらない人、また年齢も関係なく参加できるのは素晴らしいことだ。日本は西洋諸国に比べるとアートが市場的にも文化的にも浸透がまだまだ遅い気がするが、着実にアジアでもマーケットが熱気を帯びている中で、日本のアートマーケットも今後どのように成長して行くのか考えさせられる訪問でもあった。