フェムケアと広がる選択肢
フェムケアと広がる選択肢2022 10 07

生理用品の進化

ここ数年でフェムケアやフェムテックという言葉を頻繁に聞くようになった。そして近年薬局で売っている生理用品の種類も格段に増えたように思う。フェムケアがライフスタイルの一部として当たり前になりつつあることで、生理に対してようやくオープンな社会になってきたと実感する。心身の状態を良好に保つことで、自分らしい生き方やライフスタイルを確立させていくウェルネスブームがコロナ禍で多くの人に浸透したのと同様に、フェムケアは今ウェルネスに似た立ち位置で、どんどん進化を遂げている。生理や妊娠によるホルモンバランスの乱れによって引き起こされる体型や精神状態の変化と日々向き合う女性にとって、フェムケアは毎日の生活をポジティブにしてくれるものとしてより一層求められていくと感じる。

年々フェムケアの意味合いは広くなりつつあるが、それに合わせて色々なプロダクトが発売され、新しいブランドが生まれている。例えば、生理時の吸水サニタリーショーツはアメリカのThinx(シンクス)を筆頭に日本でも多くのブランドが出てきたなと思った矢先に、大手アパレルのユニクロも低価格でサニタリーショーツを販売しはじめた。またショーツ以外にも、デリケートゾーンケアに関する商品の取り扱いが一気に増え、身体を洗うこととは別に、専用のソープや保湿剤で個別のケアが必須であるという考えも広まってきている。あまりオープンなトピックでもないため、今まで得られる情報が少なく、改善の方法が知られていなかったデリケートゾーンの悩みを解決する選択肢も増えてきているのだ。さらには、インナーケアもフェムケアの一つとして、生理前のPMSや体調管理を行ない女性の日常生活をサポートしてくれる製品もある。中でもCBD(植物の麻から抽出されるカンナビジオールという成分およびそれを使用した製品)オイルは生理痛緩和や鎮静効果が期待されるため、身近に手に入るようになった今、多くの人が使用するようになった。直接舌下に垂らして飲み込んだり、コーヒーや紅茶など飲料に混ぜて摂取するタイプのものから直接お腹や腰に塗布するものまで、様々なタイプが開発されている。



フェムケアの新星

女性にとって必須である生理用品だが、日本ではタンポンより生理ナプキンが圧倒的に支持されているように思う。それは薬局の生理用品の棚を占めるナプキンのラインナップを見れば歴然だ。文化的な背景など様々な理由が伴うと思うが、個人的には日本の生理ナプキンが高性能・高品質であることが大きく関係していると感じている。反対に海外はタンポンの方が使用率及び品揃えも圧倒的に多く、ナプキンの種類はわずかだ。もちろん難なく使えるものもあるが、日本製のナプキンを使い慣れているとその品質の差は明白だ。しかしながら、フェムケアの分野においては海外、特に欧州は進んでおり、日本ではまだ見受けられない先進的な製品も登場しているのも事実である。

以前ロンドンでオーガニックスーパーにふらっと入った際に、ひときわポップなパッケージが目に入り、何だろうと手に取るとそれはタンポンだった。しかもただのタンポンではなく、CBD入りであるという。そのタンポンはイギリスのフェムテック企業「Daye (デイ)」というブランドが開発、販売している製品で、タンポンを経由してCBDを直接患部に届けることにより月経困難症の緩和が期待できるというものだった。CBDは100%自然由来であるため、市販の鎮痛剤などに含まれている化学物質にアレルギーを持っている人でも安心して使えるのが特徴だ。また私が思わず手を伸ばしてしまったように、Dayeは生理に対するネガティブなイメージを覆すような洗練されたデザインであるのはもちろんのこと、タンポンは100%オーガニックコットンで作られている上、パッケージまでも水溶性の素材で作られているとてもサステナブルなブランドだった。

Daye(デイ)のCBD入りタンポン

一体どんな人が始めたのか気になり、調べてみるとDayeの創設者は設立当時の2018年に若干24歳の女性起業家のValentina Milanova(ヴァレンティーナ・ミラノヴァ)がロンドンで設立した会社であると分かり、とても感心したのを覚えている。2019年にはCBDを配合したタンポンを開発・製造するために投資家から約5.5億円の資金調達を行い、今では基準を満たしたタンポンを製造するため、社内に製造設備を構えているという。彼らが運営するウェブサイトにはオンラインショップだけではなく、教育コンテンツも豊富に載っており、タンポンという商品を軸に、性教育やサステナビリティなど様々な視点から情報を発信している。



新たな動き

多種多様なプロダクトやブランドが生まれていることが後押しになり、生理用品に対する国や社会の動きにも大きな前進が見られるようになった。スコットランドでは、今年8月に世界で初めて、国民に対して誰にでも生理用品が無料提供される法案が全会一致で可決したというニュースを見て時代の変化を感じた。社会的企業Hey Girls (ヘイ・ガールズ)が開発した「Pick Up My Period (ピック アップ マイ ピリオッド)」というアプリを使えば生理用品を必要としている人はスコットランド国内のどこで無料配布されているか分かる仕組みだという。この法案の背景には、若い女性が生理用品の購入に苦労している “生理の貧困”がある。今生活費危機が世界中で深刻化する中、スコットランド以外にニュージランドや韓国でも “生理の貧困” の解消に向けた動きは広がりつつあり、日本でも政府や自治体による同様の取り組みはまだないものの、生理用品を軽減税率対象にすることを求める声は上がっている。スコットランドの事例ができたことにより、より多くの国で当たり前に誰でも生理用品が手に入る時代がくることを願うばかりだ。

生理や性に関わる事柄は、歴史的に多くの社会でタブー視されてきた。需要はある一方で、課題への理解が一般化されにくいことや、世代や性別などにより価値観や課題意識が大きく異なることで、表面化・言語化されることなく、産業化もされてこなかったのだ。

現代では女性の社会進出も進み、働き方・生き方が多様化している。その一方で、女性が一生の間に経験する生物学的な機能は変わっていない。生理、妊娠、更年期など女性特有の健康課題と向き合い、その時々の体調に合わせた身体のケアや、不調を未然に防ぐための選択肢が増え、だれもが自分に合った選択ができる社会に近づいていることは、大変嬉しいことだ。

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